
MPH
【聖路加SPH受験】基礎研究から製薬企業へ転身した薬学研究者のキャリアデザイン - vol.6
2025.01.30
「一人でも多くの人の役に立ちたい」
基礎研究の世界から製薬企業に転身し、その後に臨床研究を学び・医療環境を俯瞰するために聖路加国際大学公衆衛生大学院へ進学するに至った、一人の若手研究者の経験をここに記します。
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この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
聖路加SPHの入試対策
基礎研究と臨床研究のギャップ
会社勤務と並行して社会人大学院に進むキャリア
この記事は誰に向けて書いているか
聖路加SPHへの入学を検討している、入試対策を知りたい方
製薬業界でのキャリア構築について悩んでいる若手の方
基礎研究のバックグラウンドを持ちながら製薬業界(開発職)で勤務している方
MPHシリーズ
vol.14:【神奈川県立保健福祉大学MPH受験】無力感の先に見出した問い - 行動変容を支援する産業医の視点
vol.15:【国際医療福祉大学SPH受験】企業人材にもたらす”疫学”の可能性 - 業務と家庭、研究を妥協しない非医療資格者の邁進
vol.26:【京都大学SPH受験】産婦人科医から製薬転職のリアル - 人生を変えたSPHという学び舎
執筆者の紹介
氏名:匿名希望
所属:製薬企業勤務
経歴:薬科学修士。大学院(修士課程)で基礎研究に取り組んでいたが、より人への応用に近い治験・臨床研究に携わることを志し、現職の製薬企業に入社。抗がん剤領域治験の施設担当者(CRA)に従事した後、現在は臨床研究の運営担当者として業務を行っている。会社での業務経験で抱いた疑問から、新たな学びの場を求めて聖路加国際大学 公衆衛生大学院に在学中。
編集者
氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。
監修者
氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究を専門とする。日本・グローバルの双方で活動したのちに、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。
SPHを受験しようと思ったきっかけ
基礎研究から臨床研究へ
私は現在、製薬会社で治験・臨床研究に携わっています。
今の道に進んだきっかけは基礎研究に従事していた大学院時代の経験にあります。
私は元々、基礎研究の研究者を志しており、ある動物の生理現象のメカニズムの解明を目指して研究をしていました。
「人の役に立てる研究がしたい」
「自分の知的好奇心を満たせる、常にワクワクできる研究がしたい」
という思いがあり、その両方を満たせるものとして見つけたのが、この基礎研究でした。
自分が携わっていた研究に対する知的好奇心は常にありました。
また、その現象のメカニズムが一部でも解明されれば、将来的に臨床応用の可能性があるとも言われていたため、自分の研究がいずれ人の役に立つという自負も持っていました。
しかし実際には、自分の研究成果が人の役に立つまでに、細胞や動物のレベルでの安全性・有効性が確認され、さらに臨床試験によって人への安全性・有効性が確認される必要があり、それはとても長い道のりです。
加えて、自分の研究テーマで成果が得られない苦しい研究生活の中で、自分の研究成果が人の役に立つまでの道のりが果てしなく遠く感じるようになりました。
基礎研究の研究者として、自分は一生の中で人の役に立ったという気持ちになれるのだろうか?と悩むようになりました。
ここで、
「もっと人の役に立つということをダイレクトに実感できる環境に身を置きたい」
と感じるようになりました。
また、各々が独立した研究テーマに取り組むという基礎研究の性質上、個人で研究活動をしている時間が長く、研究成果が出ない中で一人で研究に取り組み続けることは精神的な辛さを感じました(その分、研究成果が出た時の喜びはひとしおなのですが)。
その反動としてチームで連携して一つの大きな仕事を進めていくことに憧れを持ちました
そんな折、製薬会社で治験・臨床研究に関わる仕事の存在を知りました。
得られたデータは直接人の役に立つのはもちろんですが、自分が従事していた基礎研究とは異なり規模が大きく、多くの人が一つの研究を進めるために連携している点も魅力に感じました。
「治験・臨床研究に関わる仕事がしたい」
「将来的には、治験・臨床研究を企画する仕事がしたい」
と思い、製薬会社への入社を決意し、縁あって某製薬企業から内定をいただき、入社することになりました。
入社してまず、抗がん剤の第1相治験の施設担当者(CRA)としての業務に従事するようになりました。
抗がん剤の第1相治験は一般的に、治験薬の安全性を確認し、サブとして有効性を検討することを目的として行われます。
この治験に参加するのは、これまで抗がん剤治療の手を尽くしてきたものの、既存の抗がん剤治療では効果が得られなかった患者さんです。
このような方々が一縷の希望を持って治験に参加され、実際に効果が現れた方がいたことを自分の目で知れた時は、自分が関わる仕事が人の役に立てていることを強く実感し、感動したことを覚えています。
その他、様々な治験の施設担当・臨床研究の運営業務を担当し、人の役に立つやりがいを感じ、いずれは自らが人の役に立つ治験・臨床研究を企画したいという思いが強くなっていきました。
入社当初は、これまでの研究経験で学んだノウハウを活かして、治験や臨床研究の企画も程なく出来るようになるだろうという甘い考えを抱いていました。
しかし、業務に携わる中で、基礎研究と臨床研究とでは大きく勝手が異なると感じるようになりました。
具体的には、以下のような違いを感じました。
基礎研究:
厳密な比較が可能なサンプルの作成が肝で、そのために遺伝子操作や厳密な曝露条件の設定に注力していた。一方で、統計解析・因果推論には重きが置かれていなかった。
臨床研究:
倫理面や実現可能性などにより、サンプルの質には限度がある。統計解析・因果推論を駆使しながら、いかに結論を導くかに重きが置かれている。このような背景から、臨床研究を体系的に学べる場を探し始め、公衆衛生大学院(SPH)の存在を知って進学を決意しました。
なぜそのSPHを選んだか
私は、企業での業務を通じて臨床研究以外にも薬価について疑問を持つようになりました。
特に抗がん剤や希少疾患の薬剤は非常に高価であることを知り、医療技術評価(HTA)における費用対効果評価に興味を持つようになりました。
また、製薬企業の立場では、いかに高い薬価を獲得できるかに注力する風潮がありますが、世間的に偏った見方であると感じ、よりフラットな目で医療経済や医療を取り巻く環境について学びたいと思いました。
大学院選びは、上述の疑問に対する学びが得られる場所であることに加えて、仕事と両立できる大学院を探しました。
これは、大学院での学びのみならず、企業勤務で得られる実務経験も重要であると思ったからです。
特に私の場合は臨床研究に関わる業務をしているため、「業務で抱いた疑問が授業で解決され、授業で学んだ知識を通じて、業務で携わる臨床研究に新たな気づきを得られるのではないか。」と考えました。
その観点から、平日の昼の時間帯(勤務時間)と重なって授業を行っている大学院は候補から外しました。
その点において、聖路加は勤務と両立して通うことのできる大学院の一つであり、基本的には平日の夜間・土曜日に授業が行われます。
オンタイムで授業参加できなかった場合にはオンデマンド視聴(+オンデマンド用の課題)で授業参加とすることができ、業務との両立には適した環境と感じました。
加えて、在学者のバックグラウンドは職種や国籍が多様である点、英語でカリキュラムが提供されており英語力を磨けるという点にも魅力を感じ、聖路加への進学を決意しました。
なお、私はまもなくSPHを卒業する予定ですが、入学前に抱いていた期待と入学からの学びを振り返ってみて、以下のような印象を持っています。
良かった点:
・入学を志したきっかけであった、臨床研究、HTA、医療環境について、概論を体系的に学ぶことができた。
・気候変動や環境が人間の健康に与える影響、行動科学等の公衆衛生に関わる多様な分野について学ぶことができた。
・クラス内のディスカッションを通して、異なるバックグラウンド(医療者、途上国からの留学生など)の方の意見に"なるほど"と膝を打つことが多かった。
入学前とのギャップ:
・2年間で興味のある授業を履修しきれなかった(有料ですが、卒業後に科目履修することも可能)。
・幅広い学びを得ることができた一方、学びを深めることに時間を割けなかった。
・実践課題(修士論文のようなもの)として、学びを実践することに割ける時間も少なく感じた。以上を踏まえて、3年コースでじっくりと学ぶことも一つの選択肢であったと感じます。
一方、こちらは厚労省の教育訓練制度(授業料の一部が支給される制度)の対象外であり、聖路加の学費を踏まえると、金銭面での検討も必要ということを申し添えたいと思います。
(続きはページの後半へ)
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受験対策でやったこと
聖路加の入試対策としては、以下の4点が乗り越えるべきハードルでした。
出願書類
試験対策(筆記試験、面接)
英語
タイムマネジメント
出願書類
私は、こちらが一番のハードルであると思います。
志望動機(英語1000words以内)、推薦状2通の準備は特に大変でした。
(これは私の反省ですが、入学を決意してから出願まで約1ヶ月しかなく、とてもあたふたしていました…余裕を持った入試対策をオススメします)
志望動機については、自分の志望動機を人に聞いてもらってフィードバックを受けながらブラッシュアップすることを繰り返しました。
上述の通り、SPHへの進学を決意した時点で志望動機の骨子はある程度できていたので、それをブラッシュアップしていく作業に注力できたのは個人的にはアドバンテージだったと思います。
また、志望動機は面接の場で聞かれても・深掘りされても答えられるように準備をしていました。
当時はChatGPTはありませんでしたが、現在はChatGPTを相談相手として対策することで、ハードルが下がっているかもしれません。
推薦状は基礎研究をやっていた時の大学院の指導教授と、現職の当時の上司に依頼しました。
推薦状は出願者の人物照会と認識しており、推薦者の格にはこだわらなかったのですが、良くも悪くも自分のことをよく見てくれていた人に依頼しようと思っていました。
幸い、お二方とも出願までの短い時間での推薦状作成の依頼を快く引き受けてくださいましたが、推薦状作成の持ち時間確保のためにも、早めの動き出しをオススメします。
試験対策
試験は筆記試験と面接試験があり、どちらも英語で実施されます。
筆記試験は、論文の一部が与えられ、内容の要約や意見を英語で記述する問題が出題されました。
対策は、自分の関心領域を中心に論文やコメンタリー等を広く読むようにしました。
具体的には
読解の中で頻出の英単語を覚える。
何がホットトピックであるかを知る。
トピックについて調べ、自分の意見をアウトプットする。
ということをしました。
公衆衛生の分野は広すぎるため、どのようなテーマの論文が出題されるか分からないことに不安を感じる方も少なくないかもしれません。
ですが、私が受験した際は、3つの異なるテーマの論文のリード文が提示され、そのうち一つを選択できる仕組みだったので、全く専門外の内容の論文を読む必要がある状況にはなりませんでした。
改めて振り返ってみると、受験対策としては、自分の関心領域とその周辺分野について論文を読むということで問題なかったと思います。
面接試験に関しては、どのようなことが聞かれるのか情報を持っていませんでした。
そのため、少なくとも当然質問されるであろう志望動機については、自分の言葉で説明でき、深掘りされても答えられるようにしました。
私が実際に尋ねられたのは「志望動機」「筆記試験の内容に関する質問」「バックグラウンド」「業務との両立について」であり、想定外の質問はなかったと記憶しています。
英語
聖路加の入学試験は筆記試験、面接試験ともに英語で行われるため英語力は必須です。
英語については、社内の業務で英語を使う機会が定期的に発生することもあり、以前から英語力向上のためオンライン英会話に取り組んでいました。
月並みですが、オンライン英会話で
話す→話せなかった表現を調べる→覚える→使ってみるということを地道に継続しました。
すぐに英語力が向上することはないですが、肌感覚では1ヶ月置きくらいに少し英語で喋れる内容が増えてきたかも?と思える瞬間があったように感じます。
とにかく腐らず鍛錬を重ねることが重要です。
タイムマネジメント
私が本格的に受験対策をした時期は12月中旬〜2月初旬頃で、年末年始休暇の間に集中して対策をしました。
それ以外の期間で受験対策(そして入学後の大学院の学習)のための時間を捻出するため、いかに残業なく業務を終わらせるかに集中しました。
具体的には、以下を意識して取り組みました。
余計な作業は勇気を持って捨てる。
全てのタスクに対して時間をかけて100点の成果を目指すのでなく、重要なもの以外は時間をかけずに75-80点くらいの成果を目指す。
大学院のことに取り組むための時間をカレンダーにあらかじめ確保しておき、よほどのことがない限り動かさない。
上記が全て上手くいったわけではないですが、足りない時間は気合いで何とか乗り越えることが出来たと思います。
受験生に伝えたいメッセージ
会社での業務経験からSPHへの進学を志し、実際に入学するまでに、様々な葛藤や躊躇がありました。
企業で得られる経験にフルコミットすべきではないか
仕事と学業の両立は可能なのか
安くない学費を工面できるのか
など、列挙しきれない程です。
ですが、今はSPHへ進学して良かったと思っています。
多様なバックグラウンドを持つ同級生から得られる気づきは多いですし、自分が学びたいと思っていたトピックについても学ぶことができ、業務に活きることも多いと感じています。
一方、特定の領域の学びを深めるという点に関しては、SPHではなくその領域に特化した別の環境が必要かもしれないと感じており、これが今の私の課題です。
SPHでの学びを糧に、まずは臨床研究を通して人の役に立つ仕事をしていきたいと考えています。
また、日本の医療環境・医療経済における課題についても、SPHでの学びを通してより関心が強くなり、この点について出来ることを模索していきたいと思います。
最後に、同級生を見ていての気づきを2つシェアします。
私の経験が、皆さんの背中を押す助けになれば幸いです。
何歳でも新しいことを学ぶ・新しい環境に飛び込むことの重要性:
私(アラサー)ですら入学に躊躇したのですが、大学院に入ってみると50-60代の同級生もいて、バリバリ学ばれています。年齢や環境を理由に学びを躊躇することは勿体無いなと感じるようになりました。
「英語そのもの」の巧拙は重要な問題ではない:
聖路加をはじめ英語を使う環境に、自身の英語力から気後れする方は少なくないと思います。ですが、聖路加の中でも、拙い英語でも懸命に意見を伝えようとしている人はいますし、教員を含めて周囲も何とかそれを理解しようとしてくれます。重要なことは英語力ではなく、自分の思いを伝えようとする気概なのだと実感しました。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
この記事が、少しでも多くの方の参考になれば幸いです。
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